整骨院の業界には「一日につき患者さんは30人必要」という“常識”があります。しかしそれは一面的な見方で、整骨院経営の成功は来院数だけでは計れないものです。立地条件、開業年数、提供する施術内容によって大きく状況は変わります。実際、一日10人でも安定経営を実現している整骨院はたくさんあります。
本記事では、少ない来院数でも成功するための具体的な戦略と考え方を解説します。「10人しか来ない」と諦めるのではなく、その「10人」をどう活かすかを考えましょう。
- 【この記事を読んでほしい人】
- ・一日の来院数が10人程度で不安を感じている整骨院の院長先生
- ・現在の来院数が成功か失敗かを知りたい方
- ・一日の来院数10人で経営を安定させる戦略を知りたい経営者
- ・来院数が少なくても利益を出すための施策を知りたい方
- ・最低限必要な来院数の目安を知りたい開業予定者方
「来院者1日10人」の売上・利益シミュレーション

整骨院の来院数が一日10人だとしても、客単価や経費のバランスによって収益は大きく変わります。保険診療のみに依存している場合は厳しいかもしれませんが、自費診療を取り入れれば、同じ来院数でも収益性を大幅に向上させられます。自院の収支バランスを定期的に確認し、必要に応じて戦略を見直しましょう。 「一日10人の来院だと実際にいくら稼げるのか?」という素朴な疑問から始めてみましょう。数字で見ると、状況がより明確になりますよ。
保険診療中心の整骨院の場合
まず、保険診療中心の整骨院を考えてみましょう。
一般的に保険診療の平均客単価は約1,500円と言われています。単純計算すると下記のようになります。
- 一日の売上:1,500円 × 10人 = 15,000円
- 月間売上(22営業日):15,000円 × 22日 = 330,000円
ちょっと厳しい数字ですよね。売上から経費を引くとどうなるでしょうか。
- 家賃:10万円
- 光熱費:2万円
- 通信費:1万円
- 消耗品費:3万円
- 広告宣伝費:2万円
- 院長の人件費(給与):20万円 その他:2万円
合計すると月に約40万円の経費。売上が33万円だと、月7万円の赤字です。これでは、さすがに続きませんね。
自費診療を取り入れた整骨院の場合
視点を変えて、同じ10人でも、自費診療を入れるとどうなるかを見てみましょう。
自費診療の平均客単価は約5,000円です。
- 一日の売上:5,000円 × 10人 = 50,000円
- 月間売上(22営業日として):50,000円 × 22日 = 1,100,000円
おっ、随分違いますね! 経費が同じ40万円だとすると、今度は月に70万円の黒字になりました。
実際、「一日10人しか来ないから厳しい」と悩んでいたある整骨院は、自費メニューの見直しと施術内容の充実によって客単価を1,800円から4,500円にアップさせた結果、月商が約40万円から100万円近くまで伸び、「来院数が少なくても成り立つ」ことを実証してくれました。
このように、同じ「一日10人」でも、何をどう提供するかで収益は大きく変わるのです。「人数が少ない」と嘆く前に、「一人あたりの単価をどう上げるか」を考えてみる価値は大いにありますよ。
「1日10人」が問題となるケースとその理由

整骨院の一日の来院数が10人程度であるのが問題になるケースは、主に経費が売上に見合っていない場合です。特にスタッフの過剰雇用、高額な家賃、大きな設備投資、効果の薄い広告費など。来院数を増やす努力と並行して、これらの経費を適正化することが重要です。自院の状況を客観的に分析し、必要な見直しを行いましょう。
スタッフを雇用している場合
整骨院でよくある落とし穴が、早い段階でのスタッフの過剰雇用です。
- 院長(オーナー):給与20万円
- アルバイトスタッフ2名:時給1,000円 × 5時間 × 22日 × 2人 = 22万円
上記の場合、人件費だけで月42万円。前項でシミュレーションした保険診療中心の整骨院だったら、売上33万円では人件費すら賄えないことになります。
たとえば、「将来の拡大を見すえて」開業時から受付1名と施術者1名を雇用していたりすると、一日の来院が10人程度では人件費が重荷になり、開業半年で資金ショートの危機に陥ります。院長自身が施術と受付を兼務する体制に切り替えて持ちこたえるしかないでしょう。
家賃が高い場合
「駅前の好立地でないと患者さんが来ない」と考え、家賃の高い物件に契約していませんか。
東京都内のある整骨院は、駅から徒歩1分、家賃25万円の物件で改行しました。この場合、一日10人程度の来院では、いくら頑張っても赤字です。結局、駅から10分、家賃10万円の住宅街に移転して経営を立て直しました。「立地よりも腕で勝負する」という考え方に切り替えることによって、今では近隣住民から「地域の健康を支える名医」として信頼されています。
設備投資にお金をかけすぎた場合
「最新設備があれば患者さんが来る」と考え、高価な機器を導入するのにも注意が必要です。
開業時に約1,000万円かけて最新の治療機器を揃えた整骨院があります。ローン返済が月15万円。でも期待したほど患者さんは増えず、一日10人程度の来院では返済が厳しく、結局一部の機器を売却することになりました。
「機械より人の技術が大事」と気づき、その後セミナーで技術を磨き、今では機器に頼らない施術で評判を呼んでいます。
広告にお金をかけすぎた場合
「広告を出せば患者さんが来る」と思い込み、効果の薄い広告に高額な費用をかけるケースも少なくありません。
開業時に月10万円のWeb広告費をかけていたある整骨院。思うような効果が出ず、来院数は一日10人程度でした。広告を見直し、無料のInstagramやLINEでのコンテンツ発信に切り替えたところ、費用ゼロで、むしろ来院数が増えたといいます。
「お金をかけるより、患者さんに価値を伝える工夫のほうが大事」なのです。

来院1日10人でも経営を安定させる戦略

「来院者一日10人」でも成功するためには、具体的にどんな戦略が必要でしょうか。下記の3つは特に効果が高い戦略です。
客単価向上戦略
「少ない来院数でも売上を上げる」ための最も効果的な方法が、客単価の向上です。
自費診療メニューの導入
保険診療だけでなく、自費診療メニューを導入することで、客単価を大きく上げることができます。
下記は自費診療メニューの導入例です。
- 美容鍼(60分):8,000円
- 骨盤矯正(40分):6,000円
- スポーツマッサージ(30分):5,000円
- パーソナルトレーニング(40分):6,000円
重要なのは「値段」ではなく「価値」です。患者さんが「払う価値がある」と感じるサービスを提供できれば、単価は自然と上がります。
従来の保険診療(1,500円)に加え、自費の骨盤矯正(6,000円)を導入することで平均客単価を4,500円に設定できます。一日10人でも月商は33万円から99万円と3倍になります。
最初は値段設定に不安を感じるかもしれません。でもしっかりした施術内容と、丁寧な説明で患者さんに価値を伝えれば、むしろ喜んで払ってくださることが実感できるはずです。
回数券やコース制の導入
単発の施術だけでなく、回数券やコース制を導入することで、一度に複数回分の売上を確保できます。
下記はコースの導入例です。
- 骨盤矯正10回コース:50,000円(通常60,000円)
- 美容鍼5回コース:35,000円(通常40,000円)
コース制には「一度に大きな売上が立つ」「患者さんの継続通院を促せる」という二重のメリットがあります。
コース制を導入すれば、単発で来ていた患者さんが5回、10回とまとめて申し込んでくれるようになり、キャッシュフローも安定します。
物販の導入
施術と合わせて物販を行うことも、客単価アップの有効な手段です。
下記は物販の例です。
- 健康サポーター:3,000~5,000円
- トレーニングチューブ:2,000~3,000円
- アイシング用品:1,500~2,500円
物販に抵抗感がある院長先生も多いですが、患者さんの健康に役立つものであれば、むしろ喜ばれるものです。売り込むのが苦手でも、「施術効果を持続させるには家でのケアも大切です」と提案することで、自然な形で物販が増え、客単価を上げることができるでしょう。
リピート率向上戦略
来院数一日10人でも、それがリピート患者さんばかりなら、安定した経営が可能です。
カルテ管理と次回予約の徹底
施術後に次回の予約を取ることが、リピート率を高める最も確実な方法です。
「次回、3日後くらいにまた来てください」ではなく、「○月○日の午後3時はいかがでしょうか?」と具体的な日時を提案することがポイント。「次回予約の声かけ」を徹底すればリピート率は確実にアップします。
予約が埋まれば一日の来院数も安定し、売上の変動が少なくなります。
LINEやメールを活用したフォローアップ
施術後のフォローアップも、リピート率向上に効果的です。
下記は施術後のフォローアップの例です。
- 施術翌日の「お体の調子はいかがですか?」メッセージ
- 自宅でできるストレッチ動画の共有
- 天気が崩れる前の「体調管理のアドバイス」
- 誕生月の特別クーポン
「うちの先生は私のことをちゃんと覚えてくれている」という安心感は、リピートの大きな動機になります。「施術翌日のLINEフォロー」を始めることで、リピート率が15%もアップした例もあります。
会員制度の導入
会員制度も、患者さんの帰属意識を高め、リピート率向上に役立ちます。
下記は会員制度の導入例です。
- 年会費制の会員制度:年間5,000円で施術料10%オフ
- ポイント制度:来院ごとにポイントが貯まり、特典と交換可能
- プレミアム会員:月額制で回数無制限や優先予約などの特典あり
『この整骨院の患者です』という帰属意識を患者さんにもってもらえれば、口コミも増えていくでしょう。
経費削減戦略
売上アップと同時に、経費の適正化も重要です。
人件費の適正化
来院数に見合った人員配置を心がけましょう。
下記は人件費の適正化の例です。
- 繁忙時間帯のみのパート雇用
- 院長自身が施術を行い、受付のみパートに任せる
- 家族の協力を得る
たとえば常勤スタッフ2名体制から、院長+繁忙時間帯のみのパート1名に変更すれば、月25万円程度の人件費を削減できます。人を減らしても、仕事を効率化させれば、患者さんの満足度も下がりません。
家賃の見直し
家賃は継続して発生する大きな固定費です。
下記は家賃の見直し例です。
- 駅徒歩10分圏内でも、車で来院できる環境なら十分
- 1階テナントにこだわらず、エレベーター完備なら2階以上もアリ
- 住宅街の中で認知度を高める工夫
ある整骨院は駅前から徒歩10分の住宅街に移転し、家賃を月15万円から7万円に削減させました。「駅前より住宅街のほうが、地域に根付いた整骨院として長く愛される」と新たな経営方針にも手応えを感じているようです。
広告宣伝費の効率化
広告費も見直しのポイントです。
下記は広告宣伝費の効率化例です。
- ポスティングからSNSへのシフト
- 地域イベントへの参加
- 患者さんからの紹介を促す仕組み
月10万円のチラシ配布を中止し、代わりにInstagramでの発信と地域の健康講座開催にシフトした整骨院では、広告費ゼロでも新規患者が減らず、むしろ「信頼できる先生」という評判が広がったそうです。
これらの戦略は、何も特別なものではありません。でも、適切に組み合わせることで、一日10人という来院数でも持続可能な整骨院経営が実現できるのです。

整骨院の来院者を増やす集客施策

もちろん、一日10人の来院数を増やすための施策も重要です。ここでは、効果的かつ現実的な集客方法をご紹介します。これらの集客施策は、必ずしも大きな費用はかかりません。自院の特性や強みを活かした、継続可能な施策から始めてみることをおすすめします。
Web集客の強化
現代の整骨院経営において、Web集客は欠かせません。
ホームページのSEO対策
「整骨院 地域名」などの検索で上位表示されることは、新規患者獲得の近道です。
下記はSEO対策の例です。
- タイトルやメタディスクリプションに「整骨院」「地域名」などのキーワードを含める
- 定期的なブログ更新(月に4回程度が目安)
- Googleマイビジネスの登録と口コミ収集
SEO対策は3ヶ月ほどで効果が現れ、Web経由の新規患者が増えていきます。デジタルが苦手な整骨院経営者も多いですが、基本を押さえれば効果を実感できるでしょう。
SNSマーケティング
InstagramやX(旧Twitter)などのSNSも、無料で始められる有効な集客ツールです。
下記はSNSマーケティング例です。
- 施術風景や院内の様子を投稿(患者さんのプライバシーに配慮)
- 自宅でできるセルフケア動画の配信
- 健康情報や季節の養生法の紹介
- 地域情報との絡めた発信
たとえばInstagramとYouTubeでセルフケア動画の配信を始めれば、「動画を見て来ました」という来院が増えてくるでしょう。SNSは一方的な宣伝ではなく、価値ある情報提供の場なのです。
地域密着型の施策
整骨院はやはり地域に根付いた商売。地域との関係構築が重要です。
自治会や町内会との連携
地域コミュニティとの連携は、信頼構築の近道です。
下記は自治会や町内会との連携例です。
- 回覧板にチラシを同封させてもらう
- 町内会の掲示板にポスターを掲示
- 地域イベントでの健康相談会の実施
たとえば地元の夏祭りに「整骨院ブース」を出展し、無料の姿勢チェックと簡易マッサージを提供するのはどうでしょう。地域住民との交流が深まり、イベント後の新規患者が期待できますよ。
近隣企業・店舗との相互紹介
近隣の企業や店舗との連携も効果的です。
下記は相互紹介の例です。
- カフェや美容院に紹介カードを置いてもらう
- 企業の社員向け健康講座の開催
- 相互紹介の仕組み作り
徒歩圏内の会社と提携して社員向けの割引制度を設けたところ、平日の午後という閑散時間帯の来院が増え、一日の来院数が増加した整骨院の例もあります。
予約システムの最適化
予約システムの見直しも、来院数増加につながります。
施術時間の見直し
施術時間を適切に設定することで、一日の対応可能人数を増やせます。
下記は予約システムの最適化例です。
- 初診(40分)と再診(20分)で時間を分ける
- 症状に応じた適切な時間設定
- 予約枠の細分化
再診患者の基本施術時間を30分から20分に短縮し、その分丁寧な説明とセルフケア指導を充実させれば、患者満足度を維持しながら、一日の対応可能人数を増やせます。
オンライン予約システムの導入
24時間予約できるシステムで取りこぼしを防ぎます。
下記はオンライン予約の導入例です。
- LINE公式アカウントでの予約受付
- Web予約システムの導入
- 予約リマインドの自動送信
ある整骨院ではLINE予約システムを導入したところ、「電話は苦手だけどLINEなら気軽に予約できる」という若い世代の患者が増加しました。特に夜間の予約が増え、翌日の予約埋まり率が向上したそうです。
【まとめ】1日10人の来院者でも成功するために
「一日10人の来院数」でも、客単価の向上、リピート率の向上、経費の適正化、集客力の強化という4つの視点からアプローチすれば、経営を安定させられます。焦って無理な集客施策を行うより、現在の患者さんへのサービス向上と経営体質の改善を優先し、着実に成長していきましょう。整骨院経営の成功は来院数だけではなく、総合的な経営バランスで決まるということを忘れないでください。
