整骨院業界は今、大きな転換期を迎えています。高齢化社会の進展、健康意識の高まり、そしてテクノロジーの進化。これらの要素が複雑に絡み合い、業界の景色を大きく変えようとしています。
この記事では、整骨院業界の「今」と「これから」を、現場の実情を踏まえながら解説していきます。
- 【この記事を読んでほしい人】
- ・独立開業を3年以内に検討している勤務柔道整復師
- ・売上が頭打ちになり新しい活路を探している現役院長
- ・整骨院業界へのM&Aを検討している異業種経営者
- ・フランチャイズ展開を計画している整骨院グループ代表
- ・医療・ヘルスケア分野への投資を検討しているベンチャーキャピタリスト
変化を恐れるか、未来を切り拓くか

こういう質問をよく聞きます。
「整骨院って、これから先も大丈夫なの?」
私たちディプシーはインターネットマーケティングの専門家として、これまで数多くの整骨院のデジタル戦略をサポートしてきました。その経験から言えるのは、整骨院業界の将来は決して暗くない、むしろチャンスに満ちているということです。
ただし、それは「変化を恐れない人」に限った話です。従来のやり方に固執していては、確実に淘汰されていく。これが整骨院業界の現実です。でも心配しないでください。この記事を読み終える頃には、あなたも業界の未来に希望を見出せるはずです。
整骨院業界の現状と将来性
整骨院業界は今後どうなっていくのか。この疑問に答えるには、まず現状を正確に把握することから始めなければなりません。
市場規模の拡大と競争の激化
現在、全国の整骨院・接骨院の数は約5万施設。これはコンビニの数に匹敵する規模です。一見すると飽和状態に見えるかもしれません。実際、都市部では、徒歩5分圏内にいくつも整骨院が存在することも珍しくありません。
しかし、視点を変えれば違う景色が見えてきます。日本の高齢化率は2025年には30%を超えると予測されています。つまり、3人に1人が65歳以上という超高齢社会です。高齢者の多くは何らかの身体的不調を抱えており、整骨院へのニーズは確実に増加していくでしょう。
さらに、若い世代でもスマートフォンの普及によるストレートネック、リモートワークによる腰痛など、新しいタイプの健康問題が増えています。整骨院業界は今後、これらの現代病にどう対応していくかが問われています。
保険診療から自費診療へのシフト
整骨院業界の大きな転換点となっているのが、保険診療の厳格化です。不正請求の問題などを受けて、保険適用の基準が年々厳しくなっています。「保険だけで経営する」という従来のモデルは、もはや成立しません。
この流れを悲観的に捉える人も多いですが、私たちは、むしろ整骨院が本来の価値を発揮するチャンスだと考えています。保険診療に頼らない、質の高い自費診療を提供することで、患者さんとより深い信頼関係を築けるからです。
実際、成功している整骨院を見ると、独自の施術メニューや予防プログラムを開発し、自費診療の比率を高めています。単価も上がり、経営も安定する。まさに一石二鳥です。
地域医療との連携強化
整骨院業界の今後を考える上で、医療機関との連携は避けて通れません。整形外科医との協力関係を築くことで、より包括的な治療を提供できるようになります。
例えば、レントゲンやMRIが必要な患者さんは医療機関へ、リハビリや継続的なケアが必要な患者さんは整骨院へ、といった役割分担が進んでいます。この連携により、患者さんは最適な治療を受けられ、整骨院も専門性を活かした治療に集中できます。
地域包括ケアシステムの一員として、整骨院の役割はますます重要になっていくでしょう。単独で完結する治療から、チーム医療への参画へ。この意識転換ができるかどうかが、生き残りの鍵となります。

整骨院の開業・経営に必要な要素とポイント

整骨院の開業を考えているなら、今がチャンスかもしれません。ただし、「とりあえず開業すれば何とかなる」時代は終わりました。戦略的な準備と差別化が成功の必須条件です。
立地選定の新しい考え方
従来の立地選定は「駅前」「人通りの多い場所」が定番でした。しかし、これからの整骨院経営では、別の視点も必要です。
例えば、高齢者をターゲットにするなら、駅前よりも住宅街の方が適している場合があります。車でのアクセスを重視し、駐車場を完備することで、郊外でも十分に集客できます。実際、私がサポートした整骨院では、あえて家賃の安い郊外に開業し、その分を設備投資と広告費に回すことで大成功を収めました。
また、競合分析も重要です。同じエリアに整骨院が多くても、それぞれが異なる専門性を持っていれば共存は可能です。スポーツ整体、産後ケア、高齢者専門など、明確なポジショニングを持つことで、競合ではなく補完関係を築けます。
初期投資と運転資金のバランス
開業資金について、多くの人が初期投資ばかりに目を向けがちです。最新の治療機器、豪華な内装…確かに魅力的ですが、本当に必要でしょうか?
私たちがお付き合いしている整骨院を見ると、初期投資を抑えて運転資金を厚くした方が、長期的には成功しやすいです。なぜなら、開業後すぐに黒字になることは稀だから。最低でも6ヶ月、できれば1年分の運転資金を確保しておくことで、焦らずじっくりと経営基盤を築けます。
設備投資は段階的に行えばいい。まずは必要最小限でスタートし、患者さんが増えてきたら、その収益で設備を充実させていく。この「スモールスタート、グロースアップ」の考え方が、リスクを抑えながら成長する秘訣です。
人材戦略の重要性
一人で始めるにしても、いずれはスタッフが必要になります。そして、整骨院の評判は、院長の腕前だけでなく、スタッフの質で決まると言っても過言ではありません。
優秀な人材を確保するには、給与や福利厚生だけでなく、「成長できる環境」を提供することが大切です。技術研修はもちろん、接遇マナー、経営の基礎知識など、幅広いスキルを身につけられる環境を整えましょう。
また、採用の段階で「理念への共感」を重視することも重要です。技術は教えられますが、価値観は変えられません。同じ方向を向いて働ける仲間を見つけることが、チーム力の源泉となります。
ディプシーからのアドバイス
開業成功の秘訣は「差別化」と「継続力」です。
他院との違いを明確にし、それを患者さんに伝え続けること。最初は反応が薄くても、諦めずに続けていれば必ず認知されます。短期的な成果を求めず、3年後、5年後を見据えた経営計画を立てましょう。

M&Aによる整骨院業界の動向

整骨院業界にもM&Aの波が押し寄せています。これは業界の成熟化を示すと同時に、新たなビジネスチャンスの到来を意味しています。
なぜ今、整骨院M&Aが注目されるのか
大企業の話ばかりでなく、整骨院業界でもM&Aは活発化しています。その背景には、後継者不足という深刻な問題があります。
院長が高齢化し、子供も別の道を歩んでいる。でも、長年築いてきた患者さんとの関係を断ち切りたくない。そんな院長にとって、M&Aは理想的な解決策となります。技術と理念を受け継いでくれる後継者に、院を託すことができるからです。
一方、買い手側にとっても魅力的です。ゼロから開業するより、既存の患者基盤とノウハウを引き継げる。開業リスクを大幅に減らしながら、経営者としてのキャリアをスタートできます。
成功する整骨院M&Aの条件
とはいえ、M&Aは魔法の杖ではありません。成功させるには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず、理念の一致です。治療方針や患者さんへの接し方など、根本的な価値観が合わなければ、統合後にトラブルが生じます。事前に十分な話し合いを重ね、お互いの考えを理解することが大切です。 次に、スタッフのケアです。M&Aで最も不安を感じるのは、実は現場のスタッフです。雇用は守られるのか、待遇は変わらないか、新しい院長とうまくやっていけるか…これらの不安を解消し、モチベーションを維持することが、M&A成功の鍵となります。
整骨院業界再編による新たな可能性
M&Aによる業界再編は、整骨院業界に新しい風を吹き込んでいます。例えば、グループ化による経営効率の向上です。
複数の院を運営することで、仕入れコストの削減、人材の柔軟な配置、ノウハウの共有など、様々なメリットが生まれます。また、グループとしてのブランド力を活かした集客も可能になります。
さらに、異業種からの参入も増えています。フィットネス企業、介護事業者、IT企業など、それぞれの強みを活かした新しいタイプの整骨院が登場しています。これは既存の整骨院にとって脅威であると同時に、協業のチャンスでもあります。
ディプシーからのアドバイス
M&Aは「売る側」「買う側」という対立関係ではなく、「業界の未来を一緒に作るパートナー探し」と考えましょう。
短期的な利益だけでなく、長期的なビジョンを共有できる相手を見つけることが、成功への近道です。
焦らず、じっくりと相手を見極めることが大切です。

ICTを導入して整骨院業務を効率化

テクノロジーの進化は、整骨院業界にも大きな変革をもたらしています。「アナログな業界」というイメージは、もはや過去のものです。
予約システムから始まるデジタル化
整骨院のデジタル化は、多くの場合、予約システムの導入から始まります。電話予約だけでは、施術中に対応できない、営業時間外は予約を受けられないなど、機会損失が発生します。
オンライン予約システムを導入することで、24時間365日予約を受け付けられます。患者さんの利便性が向上するだけでなく、予約管理の効率化、無断キャンセルの減少など、経営面でのメリットも大きいです。
さらに、予約データを分析することで、繁忙期の把握、人気メニューの特定、リピート率の計算など、経営判断に必要な情報を得られます。データに基づいた経営は、勘に頼った経営よりも確実に成果を上げられます。
業務効率化がもたらす本質的な価値
ICTの導入は、単なる効率化だけが目的ではありません。本当の価値は、「施術者が施術に集中できる環境を作る」ことにあります。
事務作業に追われていた時間を、患者さんとのコミュニケーションや技術の研鑽に充てられる。これこそが、テクノロジーがもたらす最大の恩恵です。
実際、デジタル化を進めた整骨院では、患者満足度が向上し、リピート率も上昇しています。効率化により生まれた時間を、患者さんのために使う。この好循環が、整骨院の価値を高めていきます。
ディプシーからのアドバイス
テクノロジーの導入は「目的」ではなく「手段」です。何のために導入するのか、どんな価値を生み出したいのかを明確にしてから始めましょう。
小さく始めて、効果を確認しながら拡大していく。この着実なアプローチが、デジタル化成功の秘訣です。

整骨院業界におけるM&Aの具体的事例と分析

理論だけでなく、実際の事例を見ることで、M&Aの可能性がより明確になります。ここでは、成功モデルと失敗モデルの両方から学んでいきましょう。
【成功モデル】地域密着型整骨院の事業承継
- 東京都内で30年以上営業していたA整骨院。院長は70歳を超え、体力的にも限界を感じていました。息子は別の仕事に就いており、後継者がいない状態でした。
そこに手を挙げたのが、大手整骨院グループで10年間修行を積んだBさん。独立を考えていましたが、ゼロからの開業にはリスクを感じていました。
両者の思いが合致し、M&Aが成立しました。
このモデルで重要なのは、1年間の引き継ぎ期間を設けたことです。
引継ぎ期間中、前院長には週3日出勤し、患者さんへの紹介と技術指導を行ってもらいます。結果、患者離れはほとんどなく、むしろ新院長の新しい施術メニューにより患者数は増加させることになります。
【成功モデル】異業種参入による革新的アプローチ
- フィットネスクラブを運営するC社が、整骨院事業に参入した事例も興味深いです。
単に整骨院を買収するのではなく、フィットネスと治療を融合させた新しいコンセプトを打ち出しました。
このモデルでは、整骨院での治療後、併設のジムでリハビリやトレーニングができ、ジムでのトレーニング中に痛めた場合は、すぐに整骨院で治療を受けられるという相乗効果が生まれることにより、両事業の売上を向上させられます。
異業種だからこそできる発想と、既存の顧客基盤の活用。これが成功の要因になります。
【失敗モデル】急激な変化により患者離れが加速
- D整骨院のケースでは、買収後すぐに大幅な変更を加えたことが裏目に出ました。
治療方針の変更、スタッフの入れ替え、内装の全面改装…確かに新しくなりましたが、長年通っていた患者さんにとっては「別の院」になってしまいました。
結果、患者離れが加速し、1年で閉院に追い込まれました。
この失敗モデルが教えてくれるのは、「変化は段階的に」ということです。患者さんやスタッフの心理を考慮し、少しずつ改善していく。急激な変化は、たとえそれが改善であっても、拒絶反応を生む可能性があります。
ディプシーからのアドバイス
M&Aの成功は「人」にかかっています。
売り手と買い手の相性、スタッフの理解、そして何より患者さんの信頼。これらを大切にしながら進めることが、成功への道です。
数字だけでなく、感情面にも配慮した丁寧なプロセスを心がけましょう。
【まとめ】整骨院成功のカギは「自分が何をつくりたいか」
整骨院業界は今後、大きな変革期を迎えます。でも、それは決して悪いことばかりではありません。変化の中にこそ、新しいチャンスが隠れています。
保険診療への依存から脱却し、独自の価値を提供する。テクノロジーを活用し、より質の高い治療を実現する。M&Aにより、業界全体のレベルアップを図る。これらの変化を前向きに捉え、行動を起こした人が、次の時代のリーダーになっていくでしょう。
あなたは、どんな整骨院を作りたいですか?その答えが、きっとあなたの成功への第一歩となるはずです。
